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大阪家庭裁判所堺支部 昭和51年(家イ)318号 審判 1977年5月23日

住所 大阪府松原市○○町×丁目××番地

申立人 義信

右法定代理人 親権者母

梅本ノブ子

本籍・住所 大阪府松原市○○町×丁目××番地

相手方 梅本明夫

主文

申立人が相手方の子であることを認知する。

理由

1  本件申立の趣旨は、主文同旨の調停、審判を求める。というのであり、その申立の実情として述べるところは、次のとおりである。すなわち、申立人の母梅本ノブ子(旧姓南原)は、昭和四七年三月七日国籍ノルウェーのフローデ・ローグ・ヨハンセン(一九四四年一月二一日生)と婚姻したが、ヨハンセンは昭和四九年四月外国航路の船員として出航したきり音信がなかつたため、ノルウェー領事館を通じて行方を捜索した結果、同領事館から連絡があり昭和五〇年八月頃同人と会つて協議離婚の合意をし、次いで同年九月同領事館で同人と協議離婚の届書を作成したけれども、協議離婚の届出は遅れて同年一〇月三日になされた。梅本ノブ子は、これより先昭和四九年一二月相手方と同棲するようになり、昭和五一年四月一七日婚姻の届出をしたのち、同年六月二九日申立人を分娩した。梅本ノブ子は、ヨハンセンとは上記同人出航後同棲、性的交渉の事実がなかつたので、申立人は、ヨハンセンの子ではなく、相手方の子である。ヨハンセンは、上記協議離婚届書作成後再び所在不明である。

2  まず、本件申立の適否についてみるに、強制認知が許されるか否か、その手続はいわゆる二三条審判で足りるか否か、その手続追行者は誰であるべきか等は、認知の成立要件に関する問題であり、法例一八条一項により各当事者の本国法によつて定められることとなり、また申立人については母梅本ノブ子が法定代理人親権者と称して本件申立をしているがそれが正当か否かは、親子間の法律関係に関する問題であり、法例二〇条により父があるときは父の本国法により定められることとなるところ、相手方の戸籍謄本によれば、相手方の国籍が過去現在とも日本であることは明白であるが、申立人の真の国籍がいずれの国であり、真の父が誰であるかは、本件の結論が出て初めて定まることであるから、それまでは申立人の国籍や父については表見的なところに従つて判断するほかはない。そこで、まず申立人の表見的な国籍についてみるに、梅本ノブ子(旧姓南原)の相手方との婚姻前の戸籍謄本及び申立人の出生証明書によれば、梅本ノブ子(旧姓南原)は、昭和四七年三月七日国籍ノルウェーのフローデ・ローグ・ヨハンセン(一九四四年一月二一日生)と婚姻、昭和五〇年一〇月三日同人と協議離婚し、昭和五一年四月一七日相手方と婚姻し、昭和五一年六月二九日申立人を分娩したことが認められるが、日本の国籍法における先決問題としての身分関係は法例の指定する準拠法によつて判断すべきであり、法例一七条前段によれば、子の嫡出性決定の準拠法は子の出生当時の母の夫の本国法、すなわち、本件では相手方の本国法たる日本法ということになるところ、日本民法七七二条によれば、申立人は相手方の子とは推定されず母梅本ノブ子の前夫ヨハンセンの子と推定されるから、日本の国籍法二条各号のいずれにも該当せず、日本の国籍は取得していないこととなる。他方、ノルウェーの国籍法一条一項一号は、出生の時にノルウェー国民を父とした嫡出の者はノルウェー国民とする旨規定しているが、ノルウェーの国籍法においては先決問題としての身分関係を国際私法によつて定まるべき法律によつて判断すべきものとしているかそれとも実質法によつて判断すべきものとしているかは必ずしも明らかでないけれども、仮に前者だとしても、ノルウェーの国際私法はノルウェーの実質法を優先させるものと解されるところ、ノルウェーの嫡出子に関する法律(一九五六年一二月二一日法律第九号。一九七二年六月一六日法律第四四号による改正後のもの)一条一項は、「母が婚姻中に生まれた子は、嫡出とする。ただし、この法律に基づき裁判所が夫を子の父でないと確定したとき(二条参照)又は非嫡出子に関する法律により他の者が父であると確定したとき(五条参照)は、この限りでない。婚姻が無効の宣告をうけたときも同様とする。」と規定し、同条二項は、「婚姻が解消されたときは、妻が婚姻の解消前に子を懐胎した可能性がある場合に限り、解消後に生れた子に前項の規定を準用する。ただし、妻が子の出生時に再婚していたときは、子は、この第2の婚姻の嫡出子とする。第二の婚姻の夫が子の父でないと確定されたときは、妻が前婚の解消前に子を懐胎した可能性がある場合に限り、子は、前婚の嫡出子とする。」と規定するから、これによれば、申立人は相手方の嫡出子とされヨハンセンの嫡出子とはされないから、上記ノルウェーの国籍法一条一項一号には該当せず、他の国籍取得の要件をも充たしていないので、ノルウェーの国籍も取得していないこととなる。従つて、申立人の表見上の国籍は、無国籍であり、法例二七条二項により申立人についてはその住所地法すなわち日本法が本国法とみなされることとなる。そうすると、認知の成立要件に関しては日本法を準拠法として判断すべきこととなり、日本の民法によれば、本件申立は適法ということができる。次に申立人の表見的な父は、上記から明らかなようにヨハンセンであり、その本国法は、ノルウェー法であるが、ノルウェーの国際私法によれば、親子間の法律関係に関しては反致は成立しないと解されるところ、上記ノルウェーの嫡出子に関する法律は、離婚後出生子に対する親権の帰属及び行使については親定するところがないけれども、その八条一項が、「父母が別居し、そのいずれに子の心身監護権が帰属すべきかについて意見が一致しないときは、裁判所の裁決によつてこれを裁定する。しかし、父母は、双方に異存がないとき、これをFylkesmann(政府が任命する国及び地方行政の長官)に裁定させることができる。」と規定し、同条二項が、「裁定については、何よりも子の福祉を基準としなくてはならない。子が幼少である場合に、裁判所-又は父母が裁定を委ねることにつき意見が一致しているときは、Fylkesmann-が子にとつて居所を父のもとにおく方が良いとする結論に達しなかつたときは、通常、心身監護権は母に属するものとする。なお、父母の希望もしんしやくする。」と規定するところからみれば、離婚後出生子の親権者は子が幼少の場合には母がなるものと解され、従つて、申立人の母梅本ノブ子が申立人の法定代理人親権者として本件申立をしていることも正当ということができる。

3  昭和五二年五月六日の本件調停委員会の調停において、申立人法定代理人親権者梅本ノブ子と相手方との間に主文同旨の合意が成立し、その原因たる事実関係についても争いがなかつたが、上記各戸籍謄本、当庁家庭裁判所調査官○○○○の調査結果並びに当裁判所の梅本ノブ子及び相手方に対する審問の結果によれば、上記申立の実情のとおりの事実関係を認めることができる。そして、本件の認知の成立要件については、上記のように申立人、相手方とも日本法を準拠法として判断することとなるが、日本の民法によれば、被認知者は嫡出でない子でなければならない(民法七七九条参照)ところ、申立人の嫡出性決定については、法例一七条により出生当時の申立人の母の夫たる相手方の本国法たる日本法を準拠法として判断することとなるが、上記認定の事実関係からすれば、日本の民法七七二条の解釈として、申立人は嫡出推定は受けず、母梅本ノブ子の嫡出でない子ということになり、その他の認知の成立要件も具備されていると認められるから、本件申立は認容されるべきものである。

4  よつて、本件調停委員会の家事調停委員○○○○、××××の意見を聴いた上、上記合意を正当と認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 露木靖郎)

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